発酵食の歴史 : 5
《発酵=ふくらむ》
発酵とは《ふくらむこと》のシンボリックとイコールである。
《ふくらむ》《豊か》《大きい》というシンボリックは、すなわち《女性》のシンボルにつながる。
これはごく自然なことだ。
また 《増える》 シンボルであるので、必然的に女性の作業になる。
なのでパンやビールを作るのは、もともと完全に女性の仕事であった。
これは 「女性に仕事を押し付ける」という意味では全然なく
- 種族の繁栄のための重要な仕事は、女性でなければできない
- 男性が立ち入ってはいけない
という意味である。
《発酵=進化の記憶=民族のアイデンティティ》
発酵は歴史の一部、私たちの生きている文化の一部である。
太古の昔からこんにちまで、発酵のプロセス(=レシピ)は、なにひとつ変わっていない。
象徴としてだけでなく、実際にそうなのである。
発酵工程そのものは、紀元前5000年ごろに完成している。
現代の発酵工程はそれを工業的に科学的に管理しているだけで、7000年前のものと基本的にはなにも変わっていない。
しかし発酵工程そのものは非常に厳密なもので、正確に再現しないと同じものが作れない(または失敗する)。
そのため、工程の伝承は一種の厳正な儀式として発展する。
よって、その発酵食品は、それを食べる民族のアイデンティティということになる。
《ぬかみそづくり》
たとえば日本では、
「わが家代々の糠みその作り方を、お姑さんからお嫁さんに伝える」
という風景があるが、これなどが《厳正な儀式》のいい例だ。
この《糠みその作り方を伝える》のような風習は、食品は違っても、世界中の民族の発酵食品にまつわる風習として大量に存在している。
現代の日本では「ぬかみそづくり」といえば、”嫁姑問題”のような、いささかニュアンスが変わってきてしまったのが残念だが、人類学的には非常に重要な行為なのだ。