発酵食の歴史 : 3
《社会システムの成立と発酵》
発酵は、高栄養価の食品を提供してくれるが、その工程は非常に複雑であり、また「偶然の産物」でもあったので、管理するのが難しかった。
この工程を掌握し管理できるかどうか、そして高栄養価の食品を種族に安定的に提供できるかが、その社会のリーダー(王や族長)の最大の責任であり、その地位に立つための必須条件であった。
原始的社会の王や族長は「神にもっとも近い存在」であったのは、「発酵の工程を掌握できている者」とイコールだったのだろう。
また、神の神託を受ける儀式には、だいたいアルコールが登場する。
酒を飲んで酔っ払った状態=トランス状態=神のメッセージを受ける という図式が存在していたのである。
《ピラミッドとビール》
ビール、つまり麦の発酵食品は、非常に広範囲に発達している。
昔のビールは、今のような「爽快でリフレッシュできるアルコール」ではなく、もっぱら栄養飲料(しかも主要な栄養)であった。
その証拠に、ピラミッドを建設する作業員には、報酬としてビールが提供されていたことが、多くの壁画からもわかっている。
つまり、
どれだけ多くのビールを生産できるか⇨どれだけ多くの作業員を雇えるか⇨どれだけ大きなピラミッドが造れるか⇨どれだけ偉大な王か
という方程式が成立していたのは明らかだ。
《発酵食品の分布=文化の境界線》
どんな発酵食品が分布しているかをみれば、どのような文化が棲み分けているかをみることができる。
いちばんわかりやすいのがヨーロッパである。
フランスではブドウが栽培できたので、ワインが発達した。
ドイツではブドウが栽培できず、麦しか栽培できなかったので、必然的にビールが発達したわけだ。