クリス・スクワイア追悼 : ブライアン・メイ
まだクイーンが駆け出しだった頃、僕らもイエスの大ファンだったよ。
フレディがケンジントン・マーケットでバイトしていたころ、トニー・ケイも同じところにいたんだ。
彼らがまだ、ウエスト・サイド・ストーリーの”Something’s Coming”とかのカバー曲を演奏していた頃、ライブをよく見に行ったものだよ。
当時のイエスは、そうしたカバー曲を演奏することでハーモニーのスキルを身につけていたんだね。それがのちの”I’ve Seen All Good People”などのオリジナル曲に役立つんだね。
イエスの演奏はもう何回も見てきたけど、初期のイエスを見たときの印象は、いまだに心に残ってる。
僕がインペリアル・カレッジの学生だったころ、イエスを学園祭に招聘したんだ。当時イエスはアイアン・バタフライの前座を務めていて、そのUSツアーから帰ってきたばかりのところだった。
それで彼らが会場でサウンドチェックをしているのを見物したんだ。ステージの両サイドのPAシステム。あれがすごかった。
当時のPAっていうのは、今のようなのとは全然違ってて、家庭のラジオやステレオのスピーカと大差ないものだったんだよ。
ところがイエスのサウンドシステムは、びっくりするほど違ってた。巨大な真っ黒のボックスと、その上に金属の扇風機みたいな装置が載ってるんだ。
僕らはアゴが落ちるほど驚いたね。あんなもの見たことがなかったんだ。
「あれはいったい何?」とクリスに訊いてみると、「アイアン・バタフライのサウンドシステムだよ」と。当時のロック界で世界一大きな音を出すバンドのために設計されたシステムなのさ。
ところが僕は「イエスの曲は、クリアーな音であることが重要だ」と思っていたので、どうしてそんな”大きな音”が必要なんだろう?と疑問に思ったのさ。
クリスいわく、「大きな音の上に複雑なハーモニーを載せるためには、大量のパワーが必要なんだよ。さもないとディストーションになってしまう。」
イエスは、大音量のギターとドラムスがうしろで鳴っているその前で、あのデリケートなハーモニーを構成しようと取り組んでいたからね。
この考え方はすごく参考になったよ。
僕らクイーンもまさに同じことをしようとしていたんだ。クイーンはイエスよりもヘビーな大音量のサウンドの上に、イエスよりも複雑なヴォーカル・ハーモニーを乗せようとしていたからね。
ただ僕らクイーンは・・・全然貧乏だったけど!
やがてステージでクリスがサウンドチェックを始めたんだ。アンプに繋がったリッケンバッカーを持ち上げてね。でも、いっこも弾かない前から、ムッとした声で「ノイズってるぞ!」って怒りだしたんだ。
すると、ステージ脇でスタンバイしてたクルー達が、大慌てでバタバタと調整作業を始めたんだよ。専任クルーがいるんだよ!
おカネも機材もなんにもない当時の僕らクイーンにしてみれば、「なんともお金持ちなバンドなんだな~」と思ったものさ。
「自分のギターのノイズなんか、自分で直せばいいじゃないか!?自分のギターのシールドは自分でアンプに挿せばいいじゃないか?なんでわざわざクルーにやらせるんだ??」ってね。
でも後になって、それは「自分は何にフォーカスするかということだ」、ということが分かったんだ。
ロックパフォーマーは、パフォーマンスにフォーカスすべきなんだ。テクニカルな問題に気をとられると、フォーカスできないんだよ。
そのためには、たっぷり稼いでクルーを養わないといけない。頑張ってクルー達を食わせていかないといけないんだ。
ツアークルー全体は、各人がその道のスペシャリストでないといけないんだ。まさにそれが、そのバンドの卓越性なんだ。
これがまさに僕らクイーンがイエスから学んだこと。究極のユニークなベースプレイヤー、クリス・スクワイアから学んだことさ。