《人生の扉》
今日鑑賞するのは、2007年作の《人生の扉》です。
竹内まりやの作品は、いつもはとても「作家的」でありまして。
特定の情景やストーリーにマッチするような曲が多く、ほとんど第三者的なのですが、この曲では珍しく”自分の心境”を歌っているものです。
また、
陽気にはしゃいでた 幼い日は遠く
気がつけば五十路を 超えた私がいる
満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう
というように、うつりゆく季節や、自分の50年の歳月をタイムラプスのように眺める情景、というのも、非常に珍しいです。
私が思うに、『女性の50歳』というのは心身ともに大きな変化がある時期なのだと思います。
妻として母として、そしてまたお仕事も夢中でがんばってきた50年。それらがほっと一段落した年ごろです。
この時期は、自分の駆けてきた人生を振り返らずにはいられないものです。
しかし男性の『50歳』というのは、ちょっと違うのだと思うのです。男性の50歳は、「もうひとがんばりしないといけない」年頃なので、立ち止まるわけにはいかないんです。
《人生の扉》のような曲は、男性は思いつけないだろうな、と思うものです。
人は誰でも年をとり、老いていって弱く小さくなっていくものです。
しかしそれを悲観的ならずに前向きに受け止めようと、これも誰しもが思っていることなんですが、これを端的に言い表すのが実はとても難しいものです。
しかしここで《人生の扉》では、デニムに例えることができました。これが大成功です。
君にデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように
ちょっと上の世代の方ではデニムやジーンズはちょっと縁遠いかもしれませんが、まさに私たちの世代ではデニム、ジーンズはとても馴染みのあるファッションです。
春がまた来るたび ひとつ年を重ね
目に映る景色も 少しずつ変わるよ
陽気にはしゃいでた 幼い日は遠く
気がつけば五十路を 超えた私がいる
信じられない速さで 時が過ぎ去ると 知ってしまったら
どんな小さいことも 覚えていたいと 心が言ったよ
I say it’s fun to be 20
You say it’s great to be 30
And they say it’s lovely to be 40
But I feel it’s nice to be 50
満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう
ひとつひとつ 人生の扉を開けては 感じる その重さ
ひとりひとり 愛する人たちのために 生きてゆきたいよ
I say it’s fine to be 60
You say it’s alright to be 70
And they say still good to be 80
But I’ll maybe live over 90
君にデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように
長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にでもあるさ
I say it’s sad to get weak
You say it’s hard to get older
And they day that life has no meaning
But I still believe it’s worth living
But I still believe it’s worth living
曲全体としても、”3拍子のブルース”というのは竹内まりやの楽曲のなかでも非常に珍しく、おそらくこれが最初だと思います。
この《人生の扉》がシングルCDとして発売されたとき、ジャケットのイラストは緒形拳さんによって描かれたものです。

緒形拳さんは、このシングルCDの発売のあとしばらくしてお亡くなりになられました。
そう考えると、この《人生の扉》が伝えたいことの重みもまたひとしおに感じられ、そして《いのちの歌》につながっていくことがわかっていただけると思います。